どんでん返しのミステリー・サスペンス作品といえば、やっぱり中山七里先生ですよね。
驚異的なスピードで執筆しているので「中山七里は中山一里、二里…と7人いる」説もあるほど。その驚異的な執筆スタイルはYouTube番組「有隣堂しか知らない世界」でまるっと観られますよ。ほんと、驚愕…。
Audibleにあるものはほぼ読んだ(聴いた)のですが、ジャンルも幅広く、キャラクターが全員どろどろ濃厚どろソース風味。本作も含めて、映像化されているものが多いのにも納得です。
今回読んだ「セイレーンの懺悔」は、音でもキャラクターの区別がしやすく、おすすめの1作。
<あらすじ>
マスコミは人の不幸を娯楽にする怪物なのか。
葛飾区で女子高生誘拐事件が発生し、不祥事により番組存続の危機にさらされた帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、起死回生のスクープを狙って奔走する。
しかし、多香美が廃工場で目撃したのは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた被害者・東良綾香の遺体だった。綾香が“いじめられていた”という証言から浮かび上がる、少年少女のグループ。主犯格と思われる少女は、6年前の小学生連続レイプ事件の犠牲者だった……。
マスコミは、被害者の哀しみを娯楽にし、不幸を拡大再生産する怪物なのか。
多香美が辿り着く、警察が公表できない、法律が裁けない真実とは——
「報道」のタブーに切り込む、怒濤のノンストップ・ミステリ。
私も事件現場ではないですが、マスコミと呼ばれるものの枠内では仕事をしていて、実はもやっとする場面に遭遇することは結構あります。
1つは、「メディアだからってそんなに偉いのかな?」という言動をする人や、都合の良い論理を振りかざす人に遭遇すること。残念ながら「マスゴミ」という言葉に反論できないような仕事ぶりをしている人は実際にいます。自分にできることはそういう人を見てもちゃんと手続きを踏んで、伝えるべき本当のことを伝えることにこだわっていますが。情報誌出身なので、取材相手には原稿確認を出すスタイルで育ってきているので、取材した「真実」を忖度なしにそのまま伝える「報道」という観点とはそもそもが違うのも事実なのですが。
もう1つが、現場を見ていないのに、ネット上であれこれ勝手に書き散らしている言葉です。取材で10見ても、そこから媒体のターゲットに合わせて半分ぐらいピックアップし、さらに順番を入れ替えたり、表現を変えたりしながら伝えるのがライターのお仕事。10のなかにもない話が突如ネットに想像だけで浮かび上がってきて、それが勝手に広まってしまったりするのを見ると、やるせない気分になります。
この小説は、主人公のテレビ局のニュース番組の報道記者の女性が主人公ですが、常に一緒に行動している先輩記者の男性の視線で時折訂正が入ります。ただ、教えてくれないことが半分。そう、同じ現場にいても、見ているものは同じでも、見えているものが違うのです。まずは、そこから生じるズレ。さらに、事件を担当する刑事、被害者を取り囲む人々、それぞれが見たもの・見えたものによって行動の論理が違ってくる。仕事をするうえで、物事をどう見るかは、メディアに関わるものとしてやはり大切にしなくてはならないと強く思わされる作品でした。