【試写】ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書/THE POST

「既存のメディアよりも、個人のブログの方が長く残るし、詳しく載っている」

 

そんな言葉をネットではしばしば見かけます。私は雑誌でも書いているし(まぁ、最近のものは公にしていませんが)、ネットメディアは主戦場、おまけにこんなふうに自由にブログに「忘れないようにメモっすよ」「書き散らかしてるので誤字脱字多いです」と言い訳しながら書いています。

私はメディアにも個人のブログにもどちらにも良い点があり、だからこそ成立しているので、「どちらがいい」ではなく、その内容を問う「どれがいい」という基準で語られる方がいいのではと常々思っています。一言にメディアといっても、テレビを見たり、個人の投稿の面白いものをまとめたものでも企業が運営しているものもあるわけで、形や枠ではなく、内容や質で各々のなかでも区別されるべきではないでしょうか。

 

■複数人を介して世に送り出す「編集」作業が大好きな理由

メディアを通して記事を掲載している私からすると、即時性や意見をそのまま出せないけれども、チーム作業であるメリットもあります。

商業作家であっても、ジャーナリストであっても、その書いたものが掲載されるのがメディアを介在する場合、必ず第三者の手を通過します。

場合によってはそのまんまの表現で載る場合もありますが、多くの場合は誤字・脱字のチェックや、その情報が本当に正しいのか?載せる価値があるのかを検討する「編集会議」や「担当者チェック」を経ています。

これを「干渉」と呼ぶ人もいるようですが、私はこのチーム作業が大好きです。はい、好きじゃないの、大好きなの。名刺にいまも「編集」の肩書を入れているのは、編集者として働いてきたし、いまもそのつもりで書いているという意思表示の意味もあります。

いまはフリーの身で書いていますが、掲載する媒体の担当者さんと「どこに取材するのか」「どんな方向性の記事にするのか」「どんな面白い内容が聞けそうなのか」を各媒体の方向性に合うように提案するし、逆に「こういうことを聞いてほしい」「もっとここを突っ込んできてほしい」という意見ももらいます。自分1人だとどうしても自己満足に陥りがちな内容に、ひねりを加えたり、逆につっこみすぎた内容をわかりやすくシンプルに削ることも。その過程のなかで、また新たなアイデアが浮かび、もっとあれもやりたい、これもどうかなと考える。

 

そのせめぎあいは、政治や社会の事件現場だと、かなり厳しいものだと聞いています。私は全く関わったことがないジャンルですが、社内にお邪魔したことは3社程ありまして、ピリピリした空気は独特のものでした。

 

3月30日に公開される映画「ペンダゴン・ペーパーズ 最高機密文書」では、昨今日本でも話題になっていますが、公にされず隠された秘密の文書を新聞記事にする戦いの実話が元になっています。

 

主役となっているのは、ワシントン・ポスト紙の社長と編集主幹。「ペンタゴン・ペーパーズ(ペンタゴン文書)」と呼ばれるベトナム戦争の是非についての秘密文書について、報道するか否か。報道すると、政府に対する反逆行為として訴えられるかもしれない。でも、真実は報道しなくてはならない。先に報道したニューヨーク・タイムズに処分が下るなか、その攻防が当事者たちの苦悩とともに描かれています。

 

史実に基づく内容なので、映画の結論はググると出てきますが、それを知っていても心臓がぎゅっとつかまれる作品でした。

 

私も取材したけれど「ここはオフレコで」と言われたり、あとから「あの写真まずかったんです」と拒否されることは何度もありました。たいていの場合は受け入れますが、時には「それがなくなったら、記事にする意味ないんです」と食い下がったことも。ある時には、「じゃあ全部記事にはしないです」とこちらからお断りしたこともありました。

 

伝えることって、或る種の責任が伴います。読んだ人に対して、私の名前で、おすすめするわけです。

 

もちろん、この映画の内容とは世界がアリと象以上に規模が違う話ですが、「選びとって書く」という行為は同じじゃないかなと。

 

■取材は探偵の仕事に似ている部分も

この作品で隠れたキーマンとなっているのが、ワシントン・ポスト編集局次長・記者のベン・バグディキアン。転職してワシントン・ポストで記者をしているのですが、彼の過去の経歴がこの物語を大きく動かすポイントに。演じているボブ・オデンカークがすごくいい味を出していて、「イングロリアス・バスターズ」のときのクリストフ・ヴァルツのように過去作は浮かばないものの、目が離せない存在感で試写終了後にすぐに名前を調べました(笑)。

自分の経験から紐づいた人に声をかけ、秘められた事実を裏付ける情報を引き出し、全ての手に入れた内容を俯瞰し、編んで伝える。

私も自分の仕事を「ちょっと探偵に似ているな」と思うことがあるんですが、推理して、裏付け取って・・・と、タイムリミットである「印刷への締め切り」に向かって突き進む姿は、アクション映画並みに心臓がバクバクしてしまいます。ただ、これが本当に起きたことって考えると、、、本当に恐ろしい。

 

そして、この映画を観たならば、この後に起きる事件を描いた「大統領の陰謀」をぜひ! これは私もDVDを持っているぐらい好きな作品です。「ペンタゴン・ペーパーズ」の試写後、再度観ましたがやっぱり名作。

オンライン配信はこちらから。

 

ペンタゴン・ペーパーズ

http://pentagonpapers-movie.jp/

※3月30日公開ですが、3月29日オープンの東京ミッドタウン日比谷内にある「TOHOシネマズ 日比谷」では1日前に特別先行上映されます。

 

作品公開に合わせて、劇中でメリル・ストリープが演じているキャサリン・グラハムの自伝を再構成した新刊「ペンタゴン・ペーパーズ 「キャサリン・グラハム わが人生」より」など、関連書籍も発売されます。



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